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【 たか歩き/014 】PAGOT・堀井悠次さんインタビュー「小さな決意.2」(2021年1月13日)

地域おこし協力隊がカメラ片手に多可町を歩き、その様子をリポします

はじめに


 兵庫県西脇市でショップ「PAGOT」を経営する堀井悠次さん。インタビュー前半は、鞄職人としてのキャリアや半生、播州織をテーマにしたクラウドファンディングの立ち上げを語ってくれました。

 後編はクラウドファンディグと播州織を中心に、西脇市で職人として生きる堀井さんの現実感や牛革クイズ(?)、そして「小さな決意」が話題に。

 クラウドファンディングに寄付したあと、プレゼントされるリターン品と、細部に及ぶ「こだわり」も紹介しています。



 

プロフィール


堀井悠次(Horii Yuji)
平成元年生まれ。大学卒業後、商社に就職するもモノづくりへの道が諦められず職人の世界へ。26歳で鞄職人として独立。2017年自身のブランドPAGOT(パゴット) をスタートさせる。現在は3人の子どもと一緒に西脇での生活を満喫している。














 

about

目次

・小さな決意
・パッケージにもこだわったリターン品
・夢見るバスツアー
・取材後記
 

インタビュー

小さな決意



 大阪から西脇に移住した直後から「播州織と深い関りがあった」と話す堀井さん。
 「シンプルに、播州織が好き」で、オリジナルブランドにも用いています。

 それにしても今回、堀井さんが取り上げたのは播州織の「廃棄生地」。ファン心理や高揚感に突き動かされているのではないでしょう。

 「そこは……危機感です。このままでは、技術や伝統が廃れてしまう気がして」と堀井さん。

 「SNSが普及しましたよね。買い物にしても、買ったアイテムをInstagramにアップする人が多くなった。
 となれば、写真映えする製品が好まれます。企業もそれをニーズと捉え、お洒落な形や目を引く色調を工夫する」


 


 「もちろん、色や形は製品の魅力ですし、職人としてもこだわるところなので、じっくり見て欲しい。
 ただ、こういった流れの中で、目に見えないところに手をかけないメーカーが増えたんです。
 ファストファッションが広まり、服や小物の価格が下がった。価格競争をするメーカーにしてみたら、『見えないところはコストカットできる』と判断したのかもしれません」


 
裏地にも播州織が使われている


 堀井さんが用いる革素材にも、よくない変化が見られるのだとか。

 「2000年以降、革製品の質が落ちたといわれています。これが残念ながら事実で……」

 初耳でした。思わず……自分の鞄をチラ見してしまいます。

 「1枚の牛皮から、いくつの鞄が作れるか知っていますか?」


 
ファッション界の動物の毛皮問題。服作りのために動物を殺すシステム、そして倫理観が問われている。ただ、堀井さんによると牛皮は事情が異なるらしい。「牛革は、食肉用の牛の皮を使うんですよ。素材を得るための屠殺はありません」。


 「1枚の牛皮から3~4本※取れるんです。それが、今は5本。むりやり皮を伸ばし、切り取るんです。
 当然、素材として薄くなります。これをカバーするのが芯材です。革の裏に貼り付けます。
 芯材はいろんな種類があり、特徴も違うのですが、どれも強度を高め、型崩れを防ぐ。
 ただ、芯材の利用は、このようなプラス以上にマイナスが大きくて」

 ※本:鞄業界では、鞄の数を「1本」、「2本」と数える。

 マイナス……?

 「革の呼吸を止めるんです」
 
 革も息をしている……と知り、ふいに息が詰まりました。堀井さんにそう伝えたところ、微笑みながら「革は生き物なんですよ」と教えてくれました。

 「ただ……裏張りした革は息が止まり、いずれ、ひび割れる。寿命も短くなります。
 こういった弱点がありながら、この手法が廃れないのは、ひとつには革製品を安く、大量に生産できるからです」

 堀井さんは「色づけ、染色も同じ」と話します。

 「染色に用いるのは染料、もしくは顔料です。染料は繊維に色が入るので革の呼吸を止めず、製品も長持ちします。でも、顔料に比べて高い。
 大手の鞄メーカーが使うのは、基本的に顔料。こちらは革の表面を覆うので、革の呼吸を止めてしまいます」


 


 「見えない箇所にも役割があり、職人は念入りに作ってきた。もしも細かい箇所をおざなりにしたら……お客さんと誠実に向き合えないじゃないですか。向かい合わなければ思いは伝わらないし、ますます簡易的なモノづくりが増える。ゆくゆくは職人の誇りが育たなくなって……」と間を置いて、堀井さんは続ける。

 「技術が廃れる。播州織にしても、時間をかけて開発された、すばらしい技術や伝統が消えるかもしれない」

 これに対し、別の角度から話を聞かせてくれたのが妻・紗由里さんです。


 


 「私が通った西脇高校は、制服が播州織。でも、制服の生地なんて気にしたことがなかったんです(笑)播州織工房館のことも、当時は知りませんでした。
 周りの子たちはどうだったのかな……私にとっては『有名なんだろうけど、身近ではない』のが播州織。
 だから、夫と西脇に戻ってからですね。播州織の技術力や製品の質、可愛らしさを知ったのは」

 「地元の人にも知られてないとしたら、よけいに後押ししたいですね」と堀井さん。

 「僕は職人さんにお世話になり、PAGOTの製品に使わせてもらってるから、よくわかるんです。シンプルに見える製品に……受け継がれた伝統と職人さんの技術、そして熱意。1枚の生地にすべてが詰まっている。
 廃棄生地も同じです。技術の結晶。規格や注文に合わないから捨てられるだけで、質は変わりません」

 折り重なった播州織は無地やチェック、ボーダー、厚さも風合いも様々でユニーク。まして、生地は傷みや破れがなく……このまま焼き棄てられるなんて信じられません。

 「お客様、みんなそう言います(笑)『これ、本当に捨てるの? 信じられない』と。
 播州織って、200年以上の歴史があるんですよね。すごくないですか?! 200年以上って。
 でも、そんな播州織が、このままじゃ5年後、10年後……『よくこんなものが織れていたな。今になっては無理だけど』という時代が来てしまうかもしれない。
 そうはなってほしくない。産地でモノづくりをする職人として、なにかしたい。そんな思いであれこれ考えていたら2年が経ちましたが(笑)ようやく1つ、クラウドファンディングという形に出来た。
 今回の試みは僕にとって、小さな決意表明みたいなものかもしれません」

 クラウドファンディングの寄付者は、PAGOTに足を運べば、生地が選べる※のだとか。

 「触ってみるだけでも楽しいと思います。ぜひ、PAGOTに遊びに来てください」


 ※バッグのサイズはSとMがあり、MはSよりも強度が必要。「使えない生地もあります。ご容赦ください」と堀井さん。


 

パッケージにもこだわったリターン品



 堀井さんが立ち上げたクラウドファンディングは、開始から1か月で目標金額に到達。ただ、寄付額に上限はなく、2021年1月30日まで寄付が可能です。


 『【播州織×若手鞄職人】廃棄生地の行く先を考えるアップサイクルバッグ』

 リターンは廃棄生地を用いたエブリデイバッグ。Sサイズ(4,455円)・Mサイズ(5,940円)があり、2枚・3枚セットも選べます。


 


 「お陰様で目標は達成しましたが、かけた時間や試作品を考えれば……まったくの赤字です(笑)」と堀井さん。

 「でも、皆さんに播州織や廃棄生地を知っていただける特別な機会。パッケージにもこだわりました」と、堀井さんがエブリデイバッグの箱に手をかけると、紗由里さんが一言。

 「既存のPAGOTの商品にも、オリジナルのパッケージなんてないんですよ!」


 


 「いやあ……」と頭をかく夫を横目に、「堀井は自分や家族じゃなく、他人にお金を使うタイプなので、仕方ないんですけどね(笑)」と紗由里さん。

 堀井さんが中身だけでなく、箱にもこだわったのにはワケがあるのだとか。

 「リサイクルやアップサイクル※というと、物はイイけど箱や見た目が……という商品も少なくないと思うんです。だから今回は、パッケージにしてもパッと見て『いいな』と感じられるクオリティにしたかった」


 ※アップサイクル(Upcycle):リサイクルやリユースとは異なり、もともとの形状や特徴などを活かしつつ、古くなったもの不要だと思うものを捨てずに新しいアイディアを加えることで別のモノに生まれ変わらせる、所謂”ゴミを宝物に換える”サスティナブルな考え方です。(引用:一般社団法人日本アップサイクル協会)

 


 「材料が廃棄生地だから、バッグも1つ1つ異なります。色や柄を確認できるパッケージにしたかった。イラストもポイントです。人とモノ、時代がつながり、運んでいくイメージを込めています。改めて見ると……我ながら、かっこいい(笑)デザインしてくれたokurudesignさんに感謝です」



 

夢見るバスツアー



 最後に、播州織のPRについて伺いました。

 「バスツアー、できないかなぁと。播州織には染色やサイジング、織、加工、製品化……複数の工程がありますよね。この流れをお客様に体感、体験していただきたいんです。
 ときどき、聞かれるんですよ。『播州織の生地はどこで買えますか?』って。
 多可町だと、どうですか? 西脇には播州織工房館とか、お店もいくつかありますが、見学した工場や職人さんから買えたら楽しいだろうし、ニーズだってあると思うんです」


 


 「播州織や産地に関心がある人に、作り手に会ってもらって、難しさや楽しさ、歴史を聞きながら、播州織をもっと知ってもらって……楽しそうじゃないですか? ただ、バスツアーとなると僕ひとりじゃ無理だし、んー、ひとまず……自家用車から始めるのもありか……」

 「あ……」と呟いた堀井さん。

 紗由里さんと目を合わせ、照れくさそうに言いました。

 「また、PAGOTの営業じゃないことを考えちゃってますね(笑)」



 

取材後記



 堀井さんは取材中、「手作り鞄」の特徴を教えてくれました。

 「職人にはまったく同じ鞄が作れません。技術的にどうこうではなく、通常、違う革を使うと、製品には違った個性が現れるからです。
 ただ……個体差が好かれないんですよ、鞄って。『鞄はどれも同じ』という固定概念が強いからか、大手メーカーは素材の風合い、型、サイズ、長さ、飾り……あの手この手を使って、すべての製品を同じように仕上げるんです。
 陶芸だと、釉薬の塩梅や焼き上がりの表情が魅力じゃないですか。1つとして同じものはないし、同じじゃなくていい。『陶芸ってそういうもの』と、広く知られていますよね。
 僕としては『鞄も同じですよ』と。『1つ1つ違うところが魅力なんです!』と。
 PAGOTの接客や販売では、こういった価値観をお話しするんです」

 取材の終わり、廃棄生地をPAGOTの玄関に積みました。
 同じ柄の生地もありますが、眺めていると……ぜんぶ異なる顔に見えてきます。
 しかも、触れると違う。
 つるっとした手触り、さらりとした心地、厚手の生地は弾力や張りがいい。
 個性、そして生命感があります。

 鞄や陶芸、個々の作品に個性を見出し、棄てられる播州織にも同じ眼差しを向ける。そんな堀井さんの感覚に、ほんのすこしだけ触れられた気がしました。


 

(2021年1月13日)

 

>>インタビュー前半<<<

 


開催中のクラウドファンディング

『【播州織×若手鞄職人】廃棄生地の行く先を考えるアップサイクルバッグ』
 
 

連載【 たか歩き 】

▼「たか歩き」バックナンバー
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取材・撮影・執筆:黒川直樹(多可町地域おこし協力隊(たかおこし隊) )