ここまで4回、多可町で活動する朗読ボランティアをご紹介しました。
当初、取材のポイントは3つ。「グループと活動内容」「朗読の魅力」「リスナーとの関り」を中心に記事を書くつもりでした。
そんな枠組みを拡げ、朗読ボランティアならではの経験や心情も踏まえた記事が作れたのは、ボランティアの皆さんのおかげです。ご協力ありがとうございました。
「支援」と「克服」
座談会は「興味が広がった」「朗読は生きがい」「世界が深くなった」など、生き生きした言葉が飛び交いました。
あるボランティアは「リスナーさんのためを思って始めたけれど、生かされているのは私の方ですね」と告白。
目が不自由な方に向けた活動が、新しい世界を「見せ」る ―― ボランティア活動の真髄に触れられたような痺れがありました。
そんな話を皮切りに、今回の取材を上司に報告すると、「デイジー、国際基準の記録メディア? 初めて知りました」と一言。
「私はね、眼鏡がないとよく見えないんです。同じように視力が悪い人や、もっと見えにくい人でも、眼鏡をかければ生活できるから、障害者とは言われない。
デイジーのような機械やテクノロジーが発達して、障害が克服されたら、社会から障害者と呼ばれる人がいなくなるかもしれないね」
この話を聞いたとき、なぜかショックでした。考え直すとグラグラして、それはなぜなのか……原因を、きちんと書けません。ただ、なんとなく、取材に行く前の視野の狭さや視点の乏しさが見えてきた気がします。
たとえば、障害がある方を支えたり、寄り添って過ごしたりする方向と、障害の克服を目指す道は、重なる部分があるとしても、おそらく違うんだな、と。(「克服」をどう定義するかにもよると思いますが)
当事者はどう感じているのか。障害がある方が「支えます。手伝わせてください」と言われるのと、「治しましょう。克服しましょう」と投げかけられる印象の違いは?
障害の「克服」にしても、新たな機械やテクノロジー・医療技術によって、身体的な不自由を「自由」に近づけるやり方と、身体ではなく社会やシステム・技術を変えることで、「身体的な不自由を感じにくい」世界にしていく方法とがあるのではないか……
取材前よりも問いが浮かぶ、この地点がおそらくスタートライン(の近く)でしょう。
(2021年2月12日)
▼取材協力
社会福祉法人 多可町社会福祉協議会
TEL:0795-32-3425 FAX:0795-32-4162
HP:http://www.taka-syakyo.or.jp/
朗読ボランティア「きんもくせい」
朗読ボランティア「草笛の会」
朗読ボランティア「せせらぎ」
▼多可町の朗読グループに見られた共通点
1.きっかけは朗読講座
1つは誕生のきっかけ。全グループの始点が朗読講座にありました。それも数時間の講座ではなく、厳密な抑揚や調子の整え方、息継ぎの方法などを含む本格的な数日間のプログラム。ここで出会った講師を「いまでも憧れの人」と振り返るボランティアも。
2.イントネーションの葛藤
標準語のイントネーションと格闘しながら、リスナーさんに寄り添う朗読スタイルを模索している点も、すべてのグループに共通していました。
ぼくも少し朗読の経験があり、「楽しいけど難しい」と思っていたのですが、標準語圏で育った分、楽だったと分かりました。
3.記録メディア
近年は録音データもデジタル化。記録媒体はテープ・CD・デイジー(国際基準のメディア)が併用され、リスナーが聞きやすい(使いやすい)媒体を選ぶ仕組みになっていました。
4.個人情報の保護
記録メディアはかつて、ボランティアがリスナーに手渡していたそうです。現在は個人所法保護の観点から社協が仲介。町内の誰が朗読を聞いているかは伏せられています。